クリスマスの星(5)(たけのこ森のおはなしより)

とうとう星降る谷にやってきた小人たち。

クリスマスの星(1)(2)(3)(4)」の続きをどうぞ。

・・・・・・・・・・
「あっ クリスマスの星が やってきた!」

そう叫んだ笛吹き男が指さす方を見ると ひときわまぶしい光を放っている
一つの星が北の空をのぼってきた。

「あれが クリスマスの星なの。」

「そうさ 見ていてごらん。どんな風にして 
お前たちのところまでやってくるのか。」

クリスマスの星は 少しずつ北の空をのぼりながら 
西の空をまわり 南の空へとらせんを描きつつ 
星降る谷の中央に近づいて来た。
白くまぶしい光は それにつれてだんだん強くなって 
あたりいちめんの闇をおしのけてゆく。
東の空を登りつめて 小人たちの頭上に届くころには 
完全に闇夜をしりぞけ あたりは白光色の世界と化した。

その時である。

突然 カゴの中の七夕の星から 光の柱が 天空めがけて立ち昇った。

「虹の柱だ!!」

 

とだれかが叫ぶと同時に 白い光がその柱をつたって 
小人たちめがけて 流れ込んできた。一瞬のできごとだった。

小人たちは 気を失いかけるほどびっくりしたが たじろぎはしなかった。
だってその瞬間から 小人たちは
これまで味わったこともないほどに 満たされた気分につつまれていたんだから。
きっと 心の中に幸福をもたらすキューピッドが飛びこんできたように 
感じたにちがいない。
クリスマスの星は やがて白い光の翼をおりたたむように 
再び北の空へ沈んでいったが ふとカゴの中をのぞいてみると 
七夕の星は 一つ残らず消えていた。

白じらと夜が明けてきた。クリスマスの朝が来たのだ。
小人たちは快い気分にひたりながら たけのこ森へと 川を下っていった。


「ねえ 笛吹き男。七夕の星たちが みんな空に帰れてよかったね。」

「ああ そうだね。」

「あたし クリスマスの星が 私たちのところにやってきた時
なんだか お星さまに抱かれているみたいに感じたわ。」

「ぼくだって 心の中がとても熱くなって 新しい“いのち”ってやつが
生きているって感じる。」

「お前たちの手の中で暖められていた 七夕の星たちだって
きっと今のお前たちのように 感じていたことだろうよ。」

「ホント?」

「本当さ。七夕の星たちにとっては お前たち小人が 
まさにクリスマスの星だったんだからな。」

「 ・ ・ ・ ・ ・ 。」

笛吹き男の言った最後のひと言は 小人たちにとっては なぞとして残った。
けれども 誰も聞き返すものもなかった。
なぞ解きすることよりも クリスマスの朝の 
新しい気分を味わうことの方が 小人たちには大切だったからな。

ふと空を見上げると 雪ん子が舞いおりてきた。
雪ん子たちは 小人たちの肩や腕につかまりながら
「遊んで」とせがんでくる。小人たちは 
雪ん子が来るのを待っていた 森のくりの木やけやきの木に知らせてやろうと 
たけのこ森まで 走り出した。

「オーイ 待ってくれー。」

と呼びとめる笛吹き男の声をふりきって 
くりの木のところまでやってくると
雪ん子たちは すでにはだかの枝先にまとわりついて遊んでいた。
よくみると 丸裸のはずだった枝のいたるところに 
いつのまにか紅い新芽が顔を出していた。

「ここにも クリスマスの星はやってきたんだね。」

小人たちが真紅色した新芽にそっと触れてみると 
まだ固く身をとざしていた。

「こら 小人たち。何をしてるんだー!
これから クリスマスケーキを作るんだぞー!」

と笛吹き男のカミナリが落ちた。
小人たちは いちもくさんに 家の中に飛び込んでいった。
小人たちがいなくなった森の中では 
雪ん子たちが 静かに踊りはじめた。

 きらめく星を祝うこよいは

 クリスマス クリスマス

 闇の中から 光り生まれる

 クリスマス クリスマス



クリスマスの星(4)(たけのこ森のおはなしより)

いよいよたけのこ森にクリスマスが近付いてきました。

クリスマスの星(1)(2)(3)」の続きをどうぞ。

・・・・・・・・・・
小人たちは その日から7日間 
毎日七夕の星くずを暖めてやり 
森中のもみの木に 飾りつけをしてまわった。
星くずたちはみんな 1日中ピカピカ光っていられるようになったし 
モミの木たちも 一本残らず クリスマスツリーにしたてられた。

そして いよいよ クリスマスの星を迎える日となった。

小人たちは 朝からそわそわとして 落ちつかなかった。
どこかに ツリーにしそこなったモミの木が残ってないかと 
もう一度森の中を見まわりに行ったり 
七夕の星くずの入っているカゴの中を のぞき込んでは 
光り具合を気づかっていた。
日が落ちて 出発の時がくるまで 何度 森を歩きまわったことだろう。
けれども ツリーになっていないモミの木は 一つもなかったし 
七夕の星も カゴから飛び出さんばかりに 元気よく光っていた。

「さあ 小人たち 出発の時間だ。みんな集まれー!
 ピプピペピー ピッピカピー!」

笛吹き男の笛の音が いつもより高く鳴り響くと 
ロウソクを右手に持った小人たちが足早にやってきて 一列に並んだ。
笛吹き男は 一つ一つのロウソクに火をともしてゆきながら

 

「いいか このロウソクが燃えつきるまでに 
星降る谷にたどりつかねばならない。
なーに このロウソクの火を見たら 
サタンの山の竜たちだって おそってきやしない。
けれども この火をたやさないように気をつけろ。」

 

と念を押した。

さいわい 風のない夕方で 
星降る谷につづく川辺を歩いても 眠りこけさえしなければ 
火が消えてしまうことなどないだろう。
小人たちは この日だけは 一晩中起きていなければならなかった。
そのことだけが心配だった。

だから 小人たちは 鼻の中にミントの葉をつめたり 
目のまわりにハッカ油をぬったりして 用意万たん整えていたが 
それでもやっぱり 心配なので うたを歌いながら歩き出した。

 きらめく星を 祝うこよいは

 クリスマス クリスマス

 闇の中から 光り生まれる

 クリスマス クリスマス

すっかり日も暮れて 暗くなった川辺を 
七夕の星の入ったカゴを抱えた笛吹き男と 
右手にロウソクをかかげて進む16人の小人たちの行列が
星降る谷をめざして歩いてゆく。
そのさまを見届けていたという竜の話によると
まるで 闇夜をうねうねとくぐり抜けてゆく 
光る竜のように見えたんだと。
サタンの山の竜にさえ 恐れ多くて近づけないほど
大きな竜に見えたっていうんだから 
七夕の星もロウソクも 闇夜の暗さに負けないくらい 
光ってたんだろうよ。

 

ロウソクの火をたやすことなく 星降る谷にたどりつくことのできた
笛吹き男と16人の小人たちは 
谷中を見渡すことのできる 五角形の大きな岩の上に腰をおろした。

「いつ クリスマスの星はこの谷にやってくるの。笛吹き男。」

「真夜中になってから。」

「それまでに ぼくたちのロウソクは燃えつきちゃうよ。」

「いいんだよ。ロウソクの火は 竜から身を守るために必要だったんだから。
クリスマスの星への合図には この七夕の星の光だけで充分だ。」

そういって 笛吹き男は七夕の星の入ったカゴを 
小人たちの輪のまん中に置いた。
紫に光っているのや 黄いろくまたたいているものもいて
なんだか天の川の虹の帯を見たときのことを 思い出させた。

「お星さまたち よかったね。また空に帰ることができて。」

七夕の星たちは まるで合づちを打つように チカッチカッと照り返した。

・・・・・・・・・・

クリスマスの星(5)」へ続く。


クリスマスの星(3)(たけのこ森のおはなしより)

なぜ七夕の星がお空に帰って行くのは、
クリスマスの日なんでしょうか。。。?

クリスマスの星(1)(2)」の続きをどうぞ。

・・・・・・・・・・

「七夕とクリスマスは 天と地が 
一年中で一番近付く日だってことは 知っているかい?」

 

「うん。」

 

16人の小人たちは 一同に こっくりとうなずいた。

「けれども 同じように 近づくわけではない。
七夕には 大地の方から天に近づいてくるが 
クリスマスの頃になると 天の方が大地に近づいてくる。
どうしてだと思う?」

小人たちは 誰も良い答えがみつからなかったから 
だまりこくってしまった。

「春から夏にかけては 地の国の生命力が強まってくる。
だから草木は伸び 葉を茂らすことができるんだ。
花が咲きみだれる頃には 動物たちの子供が 
次々と生まれるのもそのためなんだよ。

けれども 天の国では反対のことが起こっている。
七夕の頃に 天から落ちる星が多くなるのは 
天の国の生命力が 一番弱くなっているからなんだ。
お前たちが 七夕の日に 星降る谷に出かけるのはね 
命の力が薄くなった 天の国では 生きていられなくなった星たちを 
迎えに行って 助けてやるためなんだよ。」

小人たちはそれを聞いて 自分たちの仕事を
心から誇らしく思った。

「それじゃ クリスマスの日に 星降る谷に出かけるのは?」

「そこが大事だ。」

笛吹き男は身をのり出して さらに熱っぽく語り続けた。

「いいかい 秋から冬にかけてはね 今度は
地の国の生命力が弱まってしまう。
ホラ だからくりの木だって 木の実をふり落とすと 
あんなに茂っていた葉っぱを全部ぬぎすてて 
丸はだかになってしまうだろう。
動物たちだって もう死んだように眠るしかなくなる。
その頃に 天の国の生命は逆に強くなってくるんだよ。
だから 七夕の星たちも また空に戻ることができるってわけさ。
お前たちが クリスマスの日に星降る谷に行くのはね 
天の国のいのちをもらって 
力つきた地の国を もう一度よみがえらすためなんだ。
それは 天と地を行き来することのできる 
お前たちにしかできない仕事なんだよ。」

小人たちは ポカンと口をあけたまま 聞き入っていたが
 
「それじゃ あたしたち クリスマスの夜に 何をすればいいの?」

と一人が叫ぶように言った。小人たちは みんな 同じ気持ちだった。
笛吹き男は 小人たちを鎮めるように 今度は静かに語りはじめた。

「何もすることはない。
クリスマスの星が お前たちをさがしあててくれるだろう。
そのための目印に モミの木に飾りつけをすることが 
お前たちの仕事だった。
その仕事もあと少しになったし 
七夕の星たちも 自分の力で空にのぼれるくらい 元気になった。
あとは 七夕の星をつれて 星降る谷まで歩いてゆくだけだ。」

・・・・・・・・・・
クリスマスの星(4)」へ続く。


クリスマスの星(2)(たけのこ森のおはなしより)

クリスマスの夜の秘密。。。
笛吹き男は教えてくれるでしょうか?

クリスマスの星(1)」の続きをどうぞ。

・・・・・・・・・・
小人たちは ちょうど暖炉を囲んで 
七夕の星くずを 暖めはじめたところだった。
ドングリ拾いから帰って すぐだというのに 
だれ一人文句もいわずに 仕事にとりかかった。
七夕の星くずは 落ちてきた時には 
ただの石ころのように冷たく 灰色に固まっていたのに 
あの日以来 小人たちが 毎日のように手の平で暖めて
やったものだから だいぶ星らしくなってきた。

中にはすっかり息をふきかえして ほおっておいても一日中ピカピカ光って
いられるやつもいたが まだまだ気を抜いてはいられなかった。

星たちは 自分の力で空までのぼりきらねばならない。
いくらクリスマスの日には 天と地が一番近くなるとはいえ 
空まで届く光のはしごをかけるには
ピカーッと強い光を放てるようでなければならない。
そうでなければ 地面についらくして 
二度と生き返ることができなくなるって話だ。

そんなことになったら 小人たちだって生きたここちがしないってものさ。
なんといったって 神様からまかされた仕事だもの。
笛吹き男のカミナリが落ちるのは しかたがないとしても 
神様の信用を失って もう二度とこの国の仕事を
手伝わせてもらえないようなことになったら 一大事だ。

ここはひとつ たけのこ森の小人の誇りにかけても 
一つ残らず七夕の星を空へ 帰さねばならなかった。
16人の小人たちは手を休めることなく
ひたすら星くずを暖めていたが 
一人の小人がおもむろに口をひらいた。

「ねえ 笛吹き男。あといくつ寝たら クリスマス?」

「あと 7回朝が来たら その日がクリスマスの日だ。」

小人たちの輪に混じって まだ光のにぶい星くずをさがしては 
小人たちに手渡してやっていた笛吹き男は そう言いながら顔を上げた。

「ふーん。クリスマスの日は地の国の生きものが
新しい“いのち”をさずかる日だって 笛吹き男は いってたよね。」

「そうだよ。」

「新しい“いのち”って大事なものなんでしょ。」

「ああ この世で生きるために 一番大事なものかもしれない。」

「それを さずからなかったら ぼくたちどうなるの?」

「来年の誕生日を 迎えることができなくなる。」

それをきいて 小人たちはぎょっとした顔つきになった。

「死んじゃうってこと?」

「いいや。草木は死んでしまうが お前たち小人は 死ぬようなことはない。
けれども いつまでたっても大きくなれない。
いや 正確には体は大きくなるが 心は小さな小人のままとどまる。」

「それじゃ 学校に上がることもできなくなるの。」

「そう 行きたくても 行けないようになってしまう。
でも安心おし 小人たちよ。
お前たちは いつでもちゃんと神様の仕事をやりとげてきた。
春には3匹の鯉を空に泳がせてやることができたし 
夏には七夕の星くずを受け取って こうして生き返らせたのだ。

クリスマスの星は そんなお前たちをみつけそこねたりしないさ。
必ず お前たち一人一人に 新しいいのちの光を 届けてくれるよ。」


そう聞いて 小人たちはホッと胸をなでおろした。

 

「笛吹き男。ところで 七夕の星くずたちは 
みんな残らずクリスマスの夜空に 帰ってゆけそうかい?」

一つ一つの星くずを 手にとって光り具合を確かめていた笛吹き男は 
にっこり笑って

「ああ。お前たちが夏からずっと大切に暖めてきたから 
みんな元気に育っているよ。
あと7日間 暖めてやればもう大丈夫だろう。」

「でもなんで 七夕の星が クリスマスの日に帰らなきゃならないのかなー。
もう少し ぼくたちのところにいてほしいと思っていたのに。」

それを聞いて 笛吹き男は 待ってましたとばかりに話をはじめた。


・・・・・・・・・・
クリスマスの星(3)」へ続く。


クリスマスの星(1)(たけのこ森のおはなしより)

日一日と寒くなってきました。
ようちえんの中も、少しずつクリスマスの飾りが増えて、
なんだかワクワクする季節がやってきました。
たけのこ森のクリスマスってどんなことをするのでしょう??


・・・・・・・・・・・・
12月ともなると たけのこ森は ひっそりとしている。
ついこのあいだまでは クマやリスが 
北風やまあらしがやって来る前に木の実を拾ってしまおうと 
おちばの間から ドングリだのしいの実だのを
かき集めることにおおわらわだったのに。
今では みんな冬じたくを済ませて
しまったのか 家から一歩も出て来ようとしない。
色とりどりの木の葉をまとっていた木々も 
すっかり落葉を終えて はだかになった枝先を 
空高くつき出している。
雪ん子たちがおりてくるのを 待ちかまえているみたいだ。

日だまりの丘には この森で冬を越そうと 時々 
ヒオドシチョウやルリタテハが体を暖めにやってくる。
羽を広げて地面にはりついている姿は まるでオレンジの花や
青い花が咲いているみたいにきれいだ。
けれども それ以外のところでは 
森は色という色を失ってしまったかのように 
灰色くくすぶっていた。

そんな風に たけのこ森のすべての生きものたちが 
長い冬休みに入ろうとする時期だというのに 
小人たちは 一年中で一番忙しい季節を迎えていた。
だって もうすぐ クリスマスがやってくるんだもの!

小人たちの仕事は 毎朝 木の実を拾い集めることから始まる。
リスたちが取り残した 松ぼっくりやドングリに 
綿をつめたり 色づけしたり 毛糸を巻きつけたりして 
クリスマスツリーの飾りものを作るのだ。
それを 金糸で結んで 森中のモミの木につけて回るんだって。
クリスマスの前の日までに 
全部のもみの木をツリーにするんだっていうんだから 
そりゃ大変だ。霜が降りるほど寒い朝だって 
寝坊なんてしていられないよ。

それだけだって 大忙しだというのに もう一つ 
忘れてはならない大切な仕事がある。
七夕の日に空から降って来た星のことを 覚えているかい。
天の川からこぼれ落ちた 星くずのことだよ。
あの星くずは 小人たちの手の平で暖められると 
また生きた星になって空へ帰ることができるって話だけど
クリスマスの夜こそが その日なんだ。
どうして クリスマスの夜じゃないといけないのかって?
それなら 小人たちの家に行ってごらん。
きっと 笛吹き男が教えてくれるはずだよ
・・・・・・・・

クリスマスの星(2)」へ続く。


月見の姫(4)(たけのこ森のおはなしより)

月見の姫(1)(2)(3)の続きです。

−−−−−−−−−−−−−
姫がそっと目を開けてみると そこはいつも月をながめていた縁側でした。
十五夜の月が 三日前とかわることなく ぽっかりと浮かんでおりました。
けれども 月見の姫にはまったく違った月に見えました。

「月見の姫や いつまで月をながめているのです。」
そこへやってきたのは 母さまでした。
月の国では 三日もたったはずなのに ここでは小一時間が過ぎただけでした。

「お母さま 私は月の国へ行きたいと思います。
行って 月の国の守り主になりとうございます。
今日はお別れの晩になりました。

けれども 十五夜の満月には 必ずお母様に合図を送ります。
だから 月がまあるく満ちた夜には 
必ずこの縁側から月をながめて下さい。」


母さまは泣きました。
けれども
 すべてを知っていたかのようにうなずきました。
母と子は
 二人で見る最後の月をしずかにながめました。
紺碧の空に浮かぶ黄金色の月は どこ欠けることのない満月でした。

 なんだか お月さまが 
だんだん大きくなっていくような気がしました。

しばらくすると まぶしくなってきました。
そしてとうとう空一面に丸い月がふくらんで 
目をあけていられないほどになり

おもわず 両手で目をおおいました。

しばらくして そうっと目をあけてみると 
月見の姫は すでにそこにはおらず
母さま一人だけが縁側に 立っておりました。

それからというもの 十五夜の満月には 
うさぎの影が浮かんで見えるように
なったということです。
けれども
 それが本当にうさぎの姿なのか 月見の姫が
母さまに送る合図なのかどうかは 
今でもわからないのだということです。

・・・・・・・

 

長い長い話が終わって 千年ばばあはのっそりと 岩戸の奥へと入っていった。
取り残された小人たちはまだぼんやりと月の話にひたっていたが
「さあ 帰ろ。」
という笛吹き男のひと声で我に返った。小人たちは思わず空を見上げた。

今にも落ちそうな十五夜の月は さっきと変わりないように見えた。
けれども 月見の姫が住んでいると思うと 確かに生きている星のひとつなのだ
と感じられた。しかし月見の姫からの合図は 見あたらなかった。

「行こう。眠たくならないうちに。」

笛吹き男の威勢の良いかけ声にうながされて 
小人たちは ぞろぞろとあとに続いた。
岩戸の影から 千年ばばあがこっそりと 小人たちを見送っていたことには
誰も気がつかなかった。千年ばばあが 一番最後の小人の姿が消えていくのを
見届けた時 黄金色の月あかりが チカチカと三度まばたいた。
千年ばばあはニヤリと不思議な笑みを浮かべると 
重たい岩戸をバタリとしめてしまった。

 


うさぎ うさぎ

なにみて はねる

十五夜 お月さん

みて はねる



月見の姫(3)(たけのこ森のおはなしより)

月見の姫(1)(2)の続きです。

月見の姫ってどんなお姫様だったんでしょうね。

−−−−−−−−−−−−−

月見の姫が 十四になったある夜のこと。
姫はいつものように 縁側で月をながめておりました。

これまでにはない美しい夜で 雲ひとつない紺碧の空に
黄金色の満月がぽっかりと浮かんでいるのを見ては 
姫は ほう  ためいきをつきました。
 なんだか お月さまが だんだん大きくなってゆくような気が
しました。しばらくすると まぶしくなってきました。
それでも目をこらして見ていましたが 
やがて目をあけていられないほどになりました。

「今夜はどうしたことでしょう。」

姫はどうにかしてお月様を見ようとしましたが 
とうとう 空一面に 丸い月がふくらんだときは 
もうどうにも目をあけていられず 両手で顔をおおわねば
なりませんでした。

月見の姫が そうっと目をあけると どうしたことでしょう。

そこは月をながめていた縁側ではなく どこまでも続く 
広い広い野原でした。さらさらと足をなでる草はすべて金色でした。
ここちよい風がかぐわしい匂いを運んできます。

月見の姫は夢見ごこちで そうっと 歩きはじめました。すると
向こうの方から 白いひげのじいさんが ゆっくりと近づいてきました。
「そなたは 月見の姫じゃな。」
「はい。」
「待っておったぞ。ひとつ 頼みがあってな。」

月見の姫は おそるおそる顔を上げ じいさんの声に耳を傾けました。

「わしは 長い間 月を司ってきたが もう年をとりすぎた。
新しい守り主を探さねばならない。そこで月見の姫よ 
月の好きなおまえならばこの月の国に住んで 
月をふくらませたりつぼませたりする仕事をするのも
苦にはなるまい。」

それを聞いて月見の姫は 長い間夢見てきたことがかなうのだと
飛びあがるほどうれしくなりました。

しかし月の国の主となれば もう二度とうちには戻れなくなるのです。
姫が こうべをたれて考え込んでおりますと 白いひげのじいさんは
「三日の内に返事をもらおう 答えがでたら わしを呼ぶが良い」
 今来た道を またゆっくりと遠ざかってゆきました。

はてさてどうしたものか...
月見の姫は
 金色の草むらにじっと座り込んで
三日三晩考え続けました。

夜になると
 金色の草は白んで見えました。
朝になると また再び輝くばかりの金色に戻りました。

どうやら月の国では昼と夜が 地の国とはさかさまのようでした。
草は三度白くなり 三度金色に輝きました。

そして 丸三日がたった時 姫は白いひげのじいさんを呼びました。

「私は 月の国の守り主になりとうございます。
けれども 地の国の母さまにそのことを伝えなくてはなりません。
どうか 一日だけ うちにかえして下さい。」

すると じいさんは

「よかろう。それでは少しの間 めをとじるがよい。」

と言い 月見の姫のまぶたに そっと手をおきました。

一瞬 まぶたの中に 金色の草が飛び込んできたかのように 
明るい光が見えました。そしてまた暗くなりました。

−−−−−−−−−−−−−
月見の姫(4)へ続く。


月見の姫(2)(たけのこ森のおはなしより)

月見の姫(1)の続きです。

千年ばばあって、どんな人なんでしょうか。
千年ばばあは、月の秘密を話してくれるんでしょうか。

−−−−−−−−−−−−
小人たちが はずれ岩に着いた時には 
もう十五夜の月が 空高くのぼっていた。
澄みきった紺色の空に ぽっかりと浮かんだ十五夜の月は 
いつもより大きくてぎらぎらと まぶしく光ってみえた。
 
小人たちは はずれ岩の前で立ちすくんでいたが 
笛吹き男はいつもの声で 千年ばばあを呼んだ。
「こんにちは。千年ばばあはいるかい?」
すると
「誰じゃ。おまえの名前を言うてみい。」
と 低いがらがらとした声が 岩戸のすきまからもれてきた。
「たけのこ森の笛吹き男だ。小人も一緒につれてきた。」
「いったい 何の用があってたずねてきたのじゃ。」
「月のひみつを 教えてほしい。」
 
少しのあいだ しーんとしたと思ったら 重たい岩戸がギイとひらいた。
中から出てきたのは えんじ色のマントで身をつつんだ 
千年ばばあだった。
頭からすっぽりとマントをかぶっているものだから 
顔は見えないし マントはひきずるほどに長かったから 
どんな姿をしているかも わからなかった。
けれども まがった腰がマントの上からもわかる程
身を二つ折りにしている。
どうやら山んばじゃないらしいが 小人たちは まだ心配だった。
 
「今夜は十五夜の祭りじゃ。こんな大事な祭りの夜に 
月のひみつを教えてほしいじゃと。」
 
千年ばばあの声が 深々と地をはうように響き渡った。
ごきげんをそこねたようだ。
 
「だから ぼくたち ここで十五夜の祭りをしようと思って 
すすきとだんごを持ってきたのさ。」
 
笛吹き男が 両腕を広げて 千年ばばあの前に 
三方の台をつき出すと千年ばばあの声色が変った。
 
「ほう。これはみごとな月見のだんごだわい。
お月さまもさぞかしうれしかろう。
それなら今日はこれを月にささげて 
お前たちと十五夜を祝うことにしよう。」
 
千年ばばあは ゆったりと小人たちの前に歩みよると
 
「小人たちよ 静かにお聞き。これから始まるお話は 
月の国に伝わる物語。
地の国のはじめから生きている 
千年ばばあだけが知っている 月のひみつじゃ。
いいか決して他のものに話すでないぞ。」
 
小人たちは千年ばばあが鬼でも山んばでもないことを
確信すると 千年ばばあを囲んでまあるく坐った。
 

・・・・・

あるところに「月見の姫」という お姫さまがおりました。

月見の姫は お月さまを見ることが大好きで 毎日 
いまかいまかと 夜になるのを待ちわびては 空をながめておりました。
お月さまの出ない日は かなしい気持ちになりました。
三日月様の夜はさびしい気持ちになりました。
でも少しずつ お月さまがふくらんでくると
何だかとても明るい気持ちになるのです。
お月さまがまん丸の十五夜になると
姫は踊りだしたいくらいうれしい気持ちになりました。

月見の姫は
「一度で良いから 自分の手でお月さまをふくらませたり 
つぼませたりしたいものだ」
と願っておりました。
 
−−−−−−−−−−−−−−
月見の姫(3)へ続く。


月見の姫(1)(たけのこ森のおはなしより)

夏休みも終わり、竹の子ようちえんも2学期が始まりました。
そろそろ十五夜。
たけのこ森の小人たちは、どんな十五夜を迎えるのでしょうか。

−−−−−−−−−−−−−−

夏のさかりには 毎日セミの大合唱が聞こえた森の中も 今はしんとしている。
日だまりの丘に行っても ちょうちょのダンスはもう見られない。
ひまわりたちの笑顔に溢れていたその丘では 今やすすきたちが陣取って
涼しげなおしゃべりに夢中だ。

耳をすまして聞いてみると どうやら十五夜の主役を競っているらしい。
「一番背の高い私が お月様にはよく見えるはずよ。」
「いーや。月あかりの中でもよく光る ぼくに決まっているよ。」
と静かな秋の森の中で ここだけはカサコソとかまびすしい。そこへ小人たちが
やってきた。するとすすきは ぴたりとおしゃべりをやめた。

今夜は十五夜のお月見祭りだ。小人たちは お月さまにささげるすすきを
取りに来たのだった。
「ねえ、どうして お月さまは大きくなったり 小さくなったりするんだろう。」
と誰かがポツリと言った。
「うさぎたちが 月をかじってしまうのかな?」
「えっ。うさぎが月を食べるっていうのかい?」
「それなら どうしてまた元通りに戻るんだよ。」
「ついたもちで 直しているんじゃないか?」
「あー それで 十五夜にはもちつきをしているのが見えるんだな。」
と とりとめのないおしゃべりをしているところへ 笛吹き男がやってきた。

「こら!すすきを取らずに何をおしゃべりしているんだい。」
小人たちは 笛吹き男にどなられて 首をすくめた。

「ねえ 笛吹き男。月の国のうさぎさんが 月をかじってしまうって本当かい?」
一番チビの小人が おずおずと前へ出て 真顔でたずねた。
「えっ?どうして そんな風に思ったの?」
「だって お月さまが小さくなるときは かじった後のスイカの皮みたいに
見えるもの。」
「アーッハッハハハ」
笛吹き男は大声で笑った。おかしくて涙を流しながら 笑いころげている
笛吹き男を見て 小人たちは不愉快になった。
「それなら どうしてお月さまが 小さくなったり大きくなったりするのか
教えてよ。」
小人たちが あんまり真剣なので 笛吹き男は
「よし。それなら十五夜のお月さまがのぼる前に はずれ岩の千年ばばあの
ところへ行こう。千年ばばあならきっとその訳を教えてくれる。」


そんな訳で 笛吹き男と16人の小人たちは たけのこ森の山んばと
うわさされている千年ばばあのところまで 出かけることになった。

小人たちは 一本ずつすすきを取ると 大急ぎで家に戻り
だんごを丸めはじめたが、
「いいかい、千年ばばあは礼儀知らずが大嫌いだ。
お前たちの作っただんごが十五夜の月と同じくらいにまあるくなかったら 
追い返されてしまうよ。」
と笛吹き男に言われて なんだか おそろしくなって来た。

「千年ばばあが もし本当の山んばだったら
ぼくたち 喰われてしまうかもしれないな。」
「鬼みたいに キバがはえていたらどうしよう。」
「角だって もっているかもしれない。」

でも 小人たちはどうしても 月のひみつを知りたいと思った。
だから いっしょうけんめいにだんごを丸めた。
そうして出来上がった16このだんごは 十五夜の月よりもまんまるで
ピカピカに光っていた。

「これなら千年ばばあも気に入るよ。」

笛吹き男は 16このだんごをきれいな山に積み上げると
三方の台の上にのせ両腕にかかえた。

「さあ出発だ。」

笛吹き男を先頭に すすきを持った小人たちの行列は はずれ岩をめざして
進んだ。その時の苦労話は また別の機会におはなししよう。

−−−−−−−−−−−−
月見の姫(2)へ続く。



小人たちの生まれた日(6)(たけのこ森のおはなしより)

小人たちの生まれた日(1)
小人たちの生まれた日(2)
小人たちの生まれた日(3)
小人たちの生まれた日(4)
小人たちの生まれた日(5)の続きです。

一体、誰のお誕生日だったのでしょうか?


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これでおしまい  おはなしは
おとぎの小人も  眠ります
それではみなさん  またあした
おはなし扉は  とじる

笛吹き男が トーンシンバルを チーンと鳴らし終えると 
小人たちは 不服そうに口をとがらせた。

「なんで これで おしまいになっちゃうの?」
「これじゃ 誰の誕生日の話なのか わからないじゃないか。」

笛吹き男は しばらくの間 黙りこくっていたが 静かに 口をひらいた。

「雨をふらせて 地の国を救ったおこりんぼ天使が 
かみなり様から いただいたごほうびは何だったと思う?」

「えっ。どんなごほうび?」

小人たちは 皆 笛吹き男の方につめ寄った。

「今度 お前が地の国に行く時には これを持っていけってね。」

笛吹き男は かたわらに置いてあった魔法の笛を
そっと小人たちの前にとり出した。

「笛吹き男の誕生日だったんだ!!

小人たちは 一斉に叫び声を上げると 笛吹き男に抱きついた。

「おめでとう
おめでとう 笛吹き男

笛吹き男は 小人たちから プレゼントの花を一本ずつ受け取ると 
はずかしそうにロウソクを吹き消した。

けがれなき  うでの中
ささげられた  おくりもの
花かおり  咲きほこる
おめでとう  誕生日
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